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89話 オレの守るべき場所

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-06-29 09:49:20

「あ! ゼリルだ! 帰ってきてたんだー!」

オレはブローチを届けるため故郷の海中都市に帰り、少しの間待機していろということで街を散策していた。

そんな中オレを慕ってくれていた最近ここに来たイクテュスの一人であるロブがこちらに寄ってきて両手のハサミをカチカチと鳴らす。

「ただいま。そっちは大丈夫だったか?」

「大丈夫だったよ! 人間も近くを通らなかったし、特に事件も起こらなかったよ!」

イクテュスについては自分達でも分からないことが多い。如何せん十年前に生まれたばかりの突然変異種だ。

人間は大丈夫だがオレ達には有毒なガス等が船から出ている可能性もある。警戒するに越したことはない。

「ゼリルはまた地上に行くの?」

「まぁな。人間と対等の立場に立つためにもまだやるべきことが山積みだからな」

キュアヒーローの始末と周辺技術の奪取。交渉の場に着くための、イクテュスの国を認めてもらうための準備が終わるのはまだまだ先だ。

「あ、そういえば王様がゼリルのこと呼んでたよ!」

「王が……? まぁ久しぶりだしな……分かったすぐに向かうよ」

オレはロブと別れ水中を泳ぎ王の自室へと向かう。とはいっても大きく豪華なものではなく普通の民家より少し大きい程度だ。

「王、ゼリルです。居ますでしょうか?」

「……入れ」

無礼がないように気をつけながら部屋に上がらせてもらう。中も至って普通の部屋であり、クソッたれの人間の上流階級の奴らみたいに下品に着飾ってたりはしていない。

王は石で造られた椅子に座っており、タコの触手を動かし手招きする。

「久しいな……どうだった地上は?」

「王の言った通り……人間の醜さを嫌と言うほど見せられました。同族なのに忌み嫌いながら差別と偏見にまみれ、常にどこかしらで戦争が起きている……とても同じ知能と文明を持った生き物とは思えません」

「やはりか……もし最初向こうを信じて姿を現していたら……」

「えぇ。きっとイクテュスは一人残らず殺されていたことでしょう。王の心配は見事的中していました」

あの日、通りがかった人間がイクテュスを殺した日。オレ達の中では人間に報復しようという意見も出たがそれを真っ先に止めたのが王だった。まずは様子を見ようと、調査に出かけようと提案したのだ。

そして結果は……予想通りというべきか最
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